(感想)Innocent Forest 第2集

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 以前このブログで感想を書かせて頂いた『Innocent Forest』の第2集です。
 一応、第1集の感想記事もリンクしておきます。(第1集の感想はこちら→『(感想)Innocent Forest 第1集』)

 今作の表紙はルクレイのお顔がクローズアップされていてとても可愛いです。いや、ルクレイは近くで見ても遠くで見ても正面からでも横からでもどこから見ても可愛いですよ! 誤解を招くような言い方をしてすみません!
 第1集を読んでから随分と時間が経ってしまいましたが、第2集にはそれでも覚えている懐かしい顔と名前が見受けられました。基本的には一話完結型なので恐らく第2集から読み始めても問題ないと思いますが、標準的に第1集から読み始めたわたしの言うことなのであまり信頼しないで下さい。

 あらすじや登場人物などは素敵な特設ページが用意されていますので、そちらでご確認下さい。作者様のサイトから移動することができます。また、WEBでもいくつかお話が公開されているのでそちらから入ってみるのも良いと思います。

 詠野万知子様のサイトはこちら→Little Curly


「第6話 おとぎ話の森で」
 聞き覚えのある名前が登場して、早速懐かしい気持ちになりました。
 今回のお客さんはとても大らかな方でしたね。言葉や感受性が柔らかくて、読み手に安心感というか、枠の外の話になりますがこの人は前向きな結末を迎えられるだろうなあという信頼感をくれます。孫たちとの思い出が色鮮やかに語られているのが微笑ましいです。
 そしてネインのおとぎ話の要約が本当にかいつまんでいるだけで笑ってしまった。この淡々としていて空想に徹しきれないネインの造型が私は割と好きだったりします。ルクレイがいなくなってリラと二人きりになると孫という空想から覚めてしまうところとか。(個人的におすすめの場面です)
 個人の嗜好はそれとして万人向けにもなるであろう話をすると、リラがルクレイとの会話を通して、自身の曖昧な記憶に決着をつける瞬間とその過程が好きです。ルクレイに向けてかけたつもりの言葉が自分自身に響いてきたり、ルクレイからもらった言葉に励まされたり、言葉と言葉のやりとりが温かいです。一つ一つの言葉が脈絡を持って繋がる瞬間の感動は、何度繰り返されても色褪せないのだと思います。
 「おとぎ話」はそれ自体が「語り継がれて残っているもの」ですから、おとぎ話を大事にしているリラにとっては「思い出せない」ということのもどかしさがいっそう強かったのだと思います。だからルクレイがリラにかけてあげた言葉は本当に優しい。そこで「忘れていない」と思い至れるリラも素敵だなあ。
 リラの鳥についてルクレイとネインが(というよりはネインが)あれこれと言っている時、リラはすでに歩き出しているんだよなあ。それでもネインに「追いつかなくちゃ」という気を起こさせないんですよね。ネインにとっては「失った記憶」は取り返すべきものという考えが根強いのかもしれませんが、自分の歩幅を大事にできているのかな。
 ……ネインの話ばっかりしている気がする。

「第7話 空の寝台」
 過去の記憶がブレーキをかけてくれるって、本当にその通りなんじゃないかなあと思います。わたくし自身も自分の失敗や過ちは恥ずかしいから他人には忘れて欲しいけれど、自分が忘れたいとは思いません。私の失敗を知っている方の記憶中枢を片っ端からやっつけていきたいと常々思っています。
 物騒な方向に逸れましたが、話を戻します。このお話には、本当ならこちらが励ましたり支えたりしてあげないといけないのに、相手の強さや優しさにむしろ自分が救われてしまうことのやるせなさとか、与えてくれる人に何かを与えたいという平衡感覚のようなものが書き込まれていると思いました。そのバランスを保てないことは、特にハウザーのように心根の優しい人には苦しいはず。少女もそれを察していたから「忘れていい」なんて言ったのだろうなあとかその時点では安易に考えていました。
 過去の記憶がブレーキをかけてくれるというのは、ブレーキになってくれるから忘れてはいけないという意識も少なからずあったような気がします。屋敷に来たばかりの頃のハウザーにとって、少女の記憶は「忘れたいけど忘れてはいけない」記憶と「忘れたくないけど忘れてしまう」記憶の間で揺らめいていたのかもしれません。読者としても、少女との思い出がそれからのハウザーを後ろ向きにしてしまっているなら、その記憶は忘れてしまった方が良いんじゃないかって思ってしまった。でも、仮に名前だけでなく記憶までも忘れてしまったとして、前を向けるということにはならないのだろうなあ。その不安定さがハウザーの記憶に影響を与えているのかもしれないです。
 だから少女の名前を思い出したのは、彼女のことを正しく思い出す(気付く)ことができたということなのかな。ハウザーが鳥を迎えることができたのは、ハウザーが少女の気持ちに気付き、その記憶が「忘れたくない」記憶であることを思い出したから。そしてその記憶を抱きしめた上で、前を向いて歩いて行く準備ができたから……言葉にするとよくわからなくなってしまう。頭の中が全然整理できていないのですが、少女が強くならざるをえないところまで追い詰められてもなお苦しみを乗り越えて生きていきたいと叫んでいたのも、「忘れていい」と言ったのも、いつもみんなの前で笑っていたのも、みんなを不安にさせたくないという理由ばかりではなかったのだなあということをハウザーが感得することができたのだということは伝わってきました。「そうか」という気付きには、言語化されない言葉が多分に含まれているのだと思います。

「第8話 一番の方法」
 他には誰もいないというルクレイの台詞で「もしかしてあの人の話か?」と思い当たるところがありましたが、結構衝撃的なお話でした。第7話でルクレイが不安がっていた理由はここにあるのか……。人間は決して一人きりで生きているわけではなくて、その人の選んだ道が他の誰かに影響を与えてしまうことがあるんですよね。ある人から見たら幸せな物語が、別の人から見たら絶望的な物語になってしまうということもあります。それは決して特別なことではなくて、意識したらきりがないほどごくありふれたものだと思います。誰が悪いとか間違っているとか、必ずしもそのように割り切れることではないんですよね。切り込んでくるなあ。
 ルクレイは自らの記憶に折り合いをつけて歩き出す人達を(恐らく)何人も見送っているわけですが、その人の背中を押してあげるということは、傍からしてみれば共犯関係に見えることもあるのだろうか。あるからこんなことになったのか……。「Innocent Forest」の読者は「思い出す」物語をいくつも読んできたけれど、当然ながら旦那様やビクトルのように「忘れる」ことで出発するお客さんもいるのですよね。
 さっき共犯関係と言いましたが、ルクレイがその「罪」(という言い方が正しいとは思わないけれど便宜上この言葉を使います)を引き受けているような気がして非常に落ち着かないです。ああ……。(この溜息に感想の全てが集約されている)

 割と攻撃力高めなお話でしたが、靴下留めをつけてあげるシーンは萌えました。

「第9話 道しるべ」
 ネインが一歩前に踏み出した姿を見届けることができました。森と町を往復していた頃の彼は、心も迷いながら往来していたのかもしれないですね。
 ルクレイは包容力があって、その優しさに頼もしさを感じる反面、こんな幼い女の子にここまでの包容力を求めてしまっていいのだろうかという不安もありました。だけど、ルクレイもちゃんと寂しさを持っているんだということがわかって少し安心(?)しました。……寂しさがあるとわかった上で、ネインはルクレイを置いていかなければいけないんですけどね。その選択は、お互いの気持ちを尊重した結果ではあるんですけれども。以前ならメルグスがいるから大丈夫だと思っていたのですが、うーん。と、とにかくネインがルクレイを忘れずに約束を果たしたということはルクレイにとって新鮮なことで、ルクレイがネインに手を差し伸べたことがネインにとってほとんど初めてのような経験で……お互いにとって良い友達だったんだなあ。最後の場面はご自身の目で見届けて頂きたいです。
 ネインが欠けている記憶を取り戻したがっていたのは、忘れられてしまうことの恐怖からきていたんですね。誰かに忘れられてしまうことや誰かを忘れてしまうことの不安が彼にとっては身近で深刻な問題です。忘れることが救いになる人もいれば、そうでない人もいる。ここにも第8話で感じたことが響いてきます。
 ところでシュティってあのシュティだよね……。

「Extra 雲を釣る」
 景色が繊細に書き込まれています。説明口調ではないのに「きっとこんな感じなんだろうな」と伝わってくるような筆致です。二人が背中合わせで座っているところも目に浮かびます。場面が移り変わっていくお話も好きですし、Extraのように一場面を切り取ったお話も好きです。景色が綺麗なのは確かなことですがそれが写生されているばかりではなく、ルクレイと彼の物語もそこにあります。物語の前景と風景とが絶妙に絡み合っているのがとても好きです。風が吹くところが特に。


 以上、感想でした。
 脈絡などの接続をあまり考えずに書いたので読みづらいこと新宿駅の標識の如しって感じですが……。とにかく第1集に続いて素敵な一冊でした! 第3集は既にお迎えしているので、これから読みます。どのように着地するのか想像がつかないのではらはらしつつも楽しみです。

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